The Timeless Design Web - 成熟したメディアの未来を考える

成熟したメディアの
未来を考える

過渡期、黎明期の技術やストラテジーの変遷と比べると、今日のウェブクリエイションは相当に成熟してきています。今ではセオリー通りにさえ作られていれば、5年10年と無理無く使用に耐えられるものが出来上がるでしょう。
裏を返せば、これ以上の技術的ブレイクスルーが見込めない停滞の時期に入ったと捉えることもできます。もちろん近年台頭しているAIやノーコードツールをはじめとした制作フローの変化はありますが、閲覧インターフェイスが四角いディスプレイにマウスまたはタッチ操作という大原則はまず覆ることがなさそうで、その結果得られるビジター体験も相当に固定化されてきたと見受けられます。

しかしよく考えてみると不思議な現象もあります。デジタルデータは劣化や風化がないはずなのに、「これは古いサイトだ」と見ていて感じる場面があります。これはトレンドやストラテジーが絶えず変化していることを裏付ける体験なのかもしれません。
そしてそれが実際に古いサイトであるにも関わらず、豊かだとさえ感じる場面もあります。手触りはずっと同じガラススクリーンか(多くは樹脂製の)マウスなのに、これらの違いの正体は一体何でしょうか?

美しい壁の仕上げを行う左官職人の大半が建築施工のクレジットに掲載されないように、ウェブ制作の世界もまたとてもアノニマスな構造を持っています。制作者の彼らに想いを馳せるタイミングはせいぜい404エラーが出た時や、レイアウトが崩れて画像が画面からはみ出してしまったような場面くらいではないでしょうか。東京を走る電車の無数のドアたちが今日も1枚の不具合もなく一斉に開くように、ウェブサイトもまた正しく表示されていて当然なのです。

The Timeless Design Web(TTDW)はそういった受け手の無意識にも踏み込んだ評論を目指しています。新しい表現手法やアイデアを評価することはもちろん大事ですが、同時にそれらがどれだけ批判的な目に対する強度を持ち得ているかも観察します。
建築、美術、音楽など、必ずしもロジックだけで形成されていない表現物がアカデミックな分野としても存在感を持っているのは、評論が存在しているからに他なりません。2000年代にはウェブクリエイションもそれらに肩を並べるかもしれないという兆しがありましたが、残念ながらスマートフォンの台頭に合わせてそれは一度瓦解してしまいました。

他領域と比較した際の
ウェブクリエイションの特性

今改めてこのカテゴリに評論空間を構築しようとする時、まずはそもそもウェブクリエイションが他の領域と比べて何が特異であるかを整理しておく必要があります。例えば以下のように表すことができるのではないでしょうか。

  • スケールレスで、表示の縦横比すら作り手が決められない液体のようなメディアである
  • 静止画のみでなく動画やアニメーション、インタラクション実装も可能なメディアである
  • 入り口が多様で、ノンリニアな動線を持つメディアである
  • 公開後もコンテンツが更新、追加される終わりのないメディアである

The Timeless Design Web(TTDW)が
言語化する領域

上述したウェブクリエイションならではの前提要素に、以下のような評価軸を与えることでアウトプットの良否の言語化を試みます。これらは決してセオリー通りの考え方を機械的に評価するものではありません。

  • I : スケール耐性

    デスクトップからスマートフォンまで10倍以上の投影面積の差が出る環境下で、自然な体験を提供できているか。または別の新しい視点による提案となっているか

  • II : マルチメディア / インタラクション

    静止画、動画など複数ある選択肢の中で最適な解となっているか。受け手の記憶に残る表現が含まれているか

  • III : インターフェイス / 回遊性

    十分に考えられた設計になっているか。または心地のよい裏切りが含まれているか

  • IV : コンテンツ変化耐性

    刷新に対する柔軟性をもったデザイン設計となっているか。または合理的にそれを諦めているか

最後に

効率が強く求められる今において、敢えて時間をかけてもう一歩踏み込む。これは私たちが日々向き合っている業務を少しでも深化させ、愛そうという試みです。成熟しているから諦めるという態度では、きっと誰の心も動かすことはできないでしょう。

私たちのコレクションはまだ走り始めたばかりで、宇宙のように広いインターネット空間の断片にすら届いていません。もしあなたも素晴らしいウェブサイトをご存知でしたら、(掲載は確約できませんが)ぜひ私たちにお知らせください。なぜそれが素晴らしいのか、一緒に考えてみましょう。

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